本庶佑京大教授(ノーベル生理・医学賞受賞者)が小野薬品に訴訟提起

京都大学教授で、2018年のノーベル生理・医学賞を受賞した本庶佑先生が、小野薬品を相手取って、特許料226億円を支払え、という訴訟を提起する、と新聞発表したそうです。

訴訟提起は今月末の予定だそうで、もしかしたら、それ以前に小野薬品と和解が成立するかも知れませんが。

本庶先生は、オプジーボの売上が全世界で1兆円くらいなので、その10%の1000億円のライセンス料が妥当、とも主張しているようです。

今回は、メルクのキートルーダ(PDL-1抗体)に対する特許訴訟に本庶先生が協力する代わりに本庶先生に訴訟で得られた額の40%を支払う、という約束で本庶佑先生が訴訟に協力したそうです。ただし、この約束は口頭でしたとのことで、証拠となるメモやメールが残っていない可能性もあり得ます。もしこれが小野薬品が騙す意図で口頭で約束したとしたら悪質な詐欺との見方も可能でしょう。

しかしながら、勝訴後に小野薬品は、得られた額の1%を支払う、という通知を本庶先生に送ったそうです。この小野薬品、ブリストル・マイヤーズ・スクイブ(BMS)vsメルクの訴訟は和解になり、メルクが710億円の一時金と、その後使用料を小野薬品とBMSに支払う、ということで決着しました。

710億円の40%は284億円ですが、ブリストル・マイヤーズ・スクイブの取り分もあるので、226億円になったと思われます。

一時は小野薬品も、京都大学の基金に300億円支払う、という案を出したこともあるそうで、それをすんなり本庶先生がのんでいれば、それで決着したのでしょうが、本庶先生と小野薬品の間で何か感情的な行き違いがあるのかも知れません。ノーベル賞受賞後も小野薬品のことを本庶先生は口を極めて悪く言っていましたから、本庶先生は小野薬品に煮え湯を何度も飲まされたのかも知れません。全くの推測ですが。

このあたりの話を動画にしてみました。

この請求額の226億円のライセンス料は、日本の大学の特許としては史上最高で、これまでは全国の大学のライセンス料を1年分全部合わせても30億円にも満たないものでした。著作権料で年5億円もらった例はありますが、特許使用料ではせいぜい数億円と思います。

もっとも、アメリカの大学では、エイズの薬の特許を500億円で売却した例などもありますが。アメリカはもともと契約社会で、弁護士がたくさんいて、しかも、成功報酬制弁護士も多いので訴訟をすれば高額になりがちです。すぐに10億円以上の賠償額になるのが普通と聞いたことがあります。

日本で226億円の特許訴訟が提起されれば、青色発光ダイオードの中村修二さんの200億円訴訟を上回ることになります。中村修二さんのときは、すごい訴訟になり訴状も分厚くなって、裁判官も読むのも大変だったようです。ちゃんと読めば、他の仕事ができないくらいの分量とレベルだったそうです。ノーベル賞クラスの科学者が全力で書いたら、裁判官の理解するのに苦労するでしょう。一説には、裁判官は、答弁書を読まずに強引に和解を勧めたという説もありますが。

今回は、大学教授の代表として本庶先生にはぜひ勝って欲しいです。企業はこれまで大学から搾取しすぎました。大学の研究は税金からの公的な研究費で賄われています。それに企業はただ乗りに近いようなことをずっとしてきました。しかし、大学の先生も自身の権利をきちんと主張して正当な対価を得る権利があります。そしてそれを行使することで、大学の研究費が増え、大学や自分の研究室のためにもなります。

そういう意味で今回の訴訟はうやむやにせず、しっかり戦って、本庶先生に勝って欲しいと願っています。

追記
その後の情報で、訴訟で得られた額の40%を本庶佑先生に渡す、というのは、小野薬品の社長が直接本庶佑先生に言ったそうです。ですから、決定権者が言ったことは間違いなく、会社の社内規定でも払えるはずです。ところが、訴訟の勝訴後、1%を渡す、という通知が来て、社長に会おうとしても会えない状態が続いているようです。これでは本庶先生が怒るのも当然でしょう。小野薬品はきちんと契約を守るべきです。

これは明確な契約違反ですから、本庶先生が立証さえできれば勝てますが、口約束だけだと、証拠不十分で敗訴する可能性も無いとは言えません。小野薬品は、しっかりと約束を守って欲しいものです。

一方で製薬企業の場合、武田薬品工業でも発明者の報奨金は得られた売上の0.025%と低く、100億円売れた場合で、250万円程度、1000億売れたら2500万円、1兆円売れたら2億5千万円だそうです。会社ではこの程度なので、本庶先生のいう40%は会社ではありえない数字で、1%を渡すだけでも小野薬品は十分支払っている、という人もいます。

会社では、臨床試験に莫大な費用がかかり、最低でも数十億円、多い場合は数千億円かかります。発明者は最初のリード化合物か、遺伝子を発見し、その後は、その安全性試験を行います。その過程で安全性に問題があってドロップアウトする候補物質も多いです。ですから、製薬企業は1つの製品を開発するのに2000億円かかるなどと言われています。そうした博打をしているので、発明者の報奨金は低く抑えられてもしかたない部分があります。

しかし、基礎部分を大学がやっている場合は、製薬企業とは事情が異なりますから、企業の基準とは異なる基準でもなんらおかしくないと思います。本庶先生がしっかりライセンス料を得て、日本の研究者の地位向上に貢献して欲しいと願っています。